川本三郎

_昨年来の不況、就職難になればなるほど学生の「大学」への依存度は強くなる。彼らは大学という’遊び場所’、’小さな町’のなかだけで、つかの間の遊びを楽しむ。子供の頃からいやというほど競争社会の中で痛めつけられている。つかの間の遊びを楽しみたいのは、実はそれだけ大学の外の世界が息苦しくなったからではあるまいか。_現代の消費文明が提供するモノはなくたって困らないようなモノである。モノの情報があふれかえってくるに従って、実際の人間と人間との関係よりも人間とモノとの関係のほうがリアルになってくる。本来、町なかは異質な人間と出会う開かれた場所なのに、若い世代は町に出てもイヤホンで音楽を聴く。耳を塞ぐ事で自分の部屋に閉じこもっている気分になる。_原子力よりも太陽エネルギーや風力の利用を提唱している。近代文明、石油がぶ飲み文明の反省を訴えている。現代はフル(full)からレス(less)に価値観が変わりつつあるともいえる。_最近、あちこちで60年代が回顧されている。東京オリンピックが開催され、新幹線が開通し、日本の風景が一変した。いま再び60年代が注目されている背景には当時の「熱気」に対する郷愁があるだろう。モノが豊かになり、日本全体が都市化しているにもかかわらず現代という時代はどこかとらえどころがない。若者たちも妙に大人しく賢くなってしまっている。新聞でも雑誌でもテレビでも最近いつでもどこでも耳にするおなじみのコメント。だけど、上の文章はすべて1980年代前半に書かれたもの。だから今から30年も前のこと。30年前の若者も現代の若者も言われている事はほぼ同じ。たぶん30年後の若者も同じ事を言われるのでしょう。
80年代都市のキーワード」 川本三郎 川本三郎がジャーナリスト時代に経験した日々を綴ったノンフィクション映画「マイ・バック・ページ」を見た流れで読んだ本。映画はあまりおもしろくなかったけど、こちらの本はおもしろ。30年後の今見るからよけいにおもしろい。そして、文頭の内容はこの本からの抜粋。