中洋

中東でなにやら大変な事が起こっているみたいだけど、新聞の見出し、テレビのコメンテーターの言葉の受け売りのような内容くらいしか自分の言葉では説明できないわけで、そもそも中東の指し示す範囲も曖昧で、イスラム・シーア派・パレスチナ・石油などの歴史・文化・民族・宗教・政治を正しく理解できている人なんていないんじゃないかと思うほど、東洋と西洋の間にある大きな場所のことがよくわからない。ということで、そのあたりの映画と本をまとめて見る。
イスラエル映画「戦場でワルツを」2008世界各地の映画賞を多数受賞し、アカデミー賞の外国語映画賞にもノミネートされたドキュメンタリーアニメ。監督の実体験をもとにバシールが暗殺された事件をきれいな映像で表現。バシールって誰だ?という基本的なところで映画に置いて行かれる。イスラエル、パレスチナ、難民、ゲリラ...もうわからない。次は本、文化人類学の名著を読む。さすが、2つともとてもおもしろい。よくわかる。梅棹忠夫は東洋と西洋の間に広がる大きな範囲を「中洋」と名付ける。東洋と西洋の比較では世界はなにも見えてこない。中洋への理解が日本人は全く足りないという。50年以上も前に書かれた本なのに現代でもそのまま通じるところにおどろく。高校の授業で「地理」を選択してたのだから、少しは理解できるようになりたいなぁと。
風土(和辻哲郎著・1935)ユーラシア大陸を民族・文化・特質から3つの類型「モンスーン・砂漠・牧場」に分類。「モンスーン」本質は湿潤である。大雨・暴風・洪水・干ばつという自然の暴威が人間に襲いかかる一方、草木は生い茂り動物は繁栄する。人と自然との関係は忍耐的・受容的となる。自然であらゆる生命が生まれる。日、月、空、風、森、動物...あらゆる自然は神秘性ゆえに神化される。多数の神々が自然の中で生まれる事になる。「砂漠」本質は乾燥である。乾燥は水をもとめる生活である。草地や泉は人間の争いの種となる。争うために団結する。団結するためには全体意志への服従が必要となる。砂漠的人間は戦闘的・服従的性格を得る。砂漠における自然は死である。生は人間のみに存在する。従って神は人格神となる。イスラムである。「牧場」湿潤と乾燥との総合である。夏の乾燥と冬の湿潤は雑草を駆逐して、農作の脅威である雑草と害虫の駆除が必要ない。自然は人間に対して従順となる。自然と戦う必要がないから、冒険、征服、権力へと向かう。自然が従順であるのみならず奴隷的従順へと向かう。従順・制圧できることから合理的・統一的傾向が産まれる。統一的・普遍的教会としてカトリック教会がヨーロッパを支配する。
文明の生態史観(梅棹忠夫著・1956)ユーラシア大陸を歴史・文明・生活様式から2つの地域「第一地域・第二地域」に分類。「第一地域」東の端と西の端。日本と西ヨーロッパ。中緯度温帯。適度の雨量。高い土地の生産力。古代文明の発源地にならなかったが、はしっこのため中央の暴力がおよぶことがなかった。そして第二地域から文明を導入し、封建制、絶対主義、革命をへて、資本主義による高度近代文明をもつ地域。「第二地域」東と西にはさまれた全大陸。4つの文明圏(中国・インド・ロシア・イスラム)にわかれる。乾燥地帯。乾燥から生まれる人間は激しい破壊力を示す。建設と破壊を繰り返し成熟しない。古代文明はすべてこの地域に発生し、封建制を発展させる事なく、巨大な専制帝国をつくり、第一地域の植民地となりようやく近代化のみちをたどろうとしている地域。