素手時然

読む本を選ぶ基準は特になく、なんとなく気になったものから手当たり次第読んでいく。なので、好きになった本はジャンルも内容もバラバラで、まったく系統立っていない。伊藤ていじの「日本デザイン論」と岡倉天心の「茶の本」で本を読むことが好きになり、鴨長明の「方丈記」と吉田兼好の「徒然草」で古典にも興味が出て、夏目漱石の「こころ」と宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」で小説ってやっぱりいいなぁと思い至る。また、高浜虚子の「俳句への道」と世阿弥の「風姿花伝」で日本文化の奥深さを味わい、「柳宗悦」や「棟方志功」で民藝にはまり、宮本常一の「忘れられた日本人」と白川静の「常用字解」で日本の歴史に俄然興味が湧いてくる。「北大路魯山人」と「松浦弥太郎」で暮らしについて考えてみたり、建築家の隈研吾の「負ける建築」と内藤廣の「環境デザイン講義」の現代的な切り口はさすがで、谷川俊太郎の「詩集」や五味太郎の「絵本」は大人になっても面白い。佐々木正人の「アフォーダンス」と深澤直人の「デザインの輪郭」で認知科学の存在を知り、松岡正剛の「千夜千冊」と外山滋比古の「思考の整理学」で情報の編集について考えさせられ、川本三郎の「都市の風景学」と都築響一の「TOKYO STYLE」で都市論や社会学にも思いを馳せる。さらに、「岡潔」から「森田真生」まで数学の興味は相変わらず尽きず、日高敏隆の「人間はどこまで動物か」と福岡伸一の「生物と無生物のあいだ」で生物学も好きになり、寺田寅彦の「随筆集」と中谷宇吉郎の「雪」で物理学もやっぱりいいなぁと思ったり。
そんなときに無印良品のコンセプトブック「素手時然」を図書館で偶然見つける。無印良品がめざす世界像に共鳴する文章を古今東西の書籍の中から約150冊選出し、一冊の本としてまとめたアンソロジー。驚いたことに、上記に列挙した自分の好きは本の著者30人のすべてが「素手時然」に掲載されている。150冊中、30冊が好きな本の著者。世の中に数え切れない数の本が出版されているのに、無印が選出した150冊のうち、30冊が自分の興味と合致しているという事実。まったく系統立っていないと思っていたのに、なんらかの共通項があるということがわかって、うれしいような、あっけないような。。