発酵

発酵にまつわる本を3つまとめて読んでみる。「経済学」「文化人類学」「情報学」という一見「発酵」とはあまり関係がないと思われる学問を「発酵」というフィルターを通して見つめ直す面白い試み。バイオテクノロジーや地方創生、AIなど昨今トレンドのキーワードと「発酵」に親和性がとてもあることに気づかされ、とても面白く読めた3冊の本。
田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」2013 渡邉 格お金中心の「腐らない」経済から、発酵を繰り返す「腐る」経済へ。お金は、時間が経っても土へと還らない。永遠に「腐らない」。それどころか、投資によって得られる「利潤」や、おカネの貸し借りによる「利子」によって、どこまでも増えていく。この「腐らない」お金が、資本主義のおかしさをつくりだしている。場が整い、「菌」が育てば、食べものは「発酵」へと向かう。それと同じで、「職」や「職人」が育てば、経済も「発酵」へと向かう。「職」(労働力)を安くするために「食」(商品)を安くするという資本主義の構造に対して、人も菌も生命が豊かに育まれ、潜在能力が十二分に発揮される「腐る」経済へ。経済の「拝金主義」ではなく「拝菌主義」へ。仕事のために「借金」をするのではなく、地域の菌の力を借りる「借菌」で商いを行う。「金本位制」ではなく「菌本位制」へ。マクロ経済の話から、パン屋経営のミクロ経済の話へ、「発酵」から「経済」を見通す本。
謎床: 思考が発酵する編集術2017 松岡 正剛+ドミニク チェン「情報」には「自然」が足りない。利益優先の経済システムは決して豊かな文化に導けない。必要なのは人間が生物として本来もっているリズムに寄り添うような、「自然な情報メディア」。無数億の微生物(=ユーザー)が、多様な栄養源をもつ糠(=デジタル情報)のなかでうごめき、発酵(=リミックス、ブラッシュアップ)させ、おいしい発酵食(=新しい作品、情報)を生み出す…。野菜を入れると乳酸菌たちが発酵を通して滋味溢れる漬物を返してくれる糠床のように、知識を投入すると思考を進めるための素材としての問いを返してくれる器、謎を育くむ床(=謎床)。あらゆる情報が即時に手に入れることができる現代の環境において、いかに本質的な謎、問いを生成できるかということが最も重要となる。
発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ2017 小倉ヒラク「発酵を通して、人類の暮らしにまつわる文化や技術の謎を紐解く学問」発酵文化は地方の文化でもある。地方の小都市や農漁村から、山にも平野にも海にも川にもそれぞれの風土に育まれた発酵文化がある。酒、味噌、醤油、麹、イースト、藍に乳酸菌、人間は発酵=微生物のちからを使いこなすことで文化を発展させてきた。古代アジアにおいて文字が発明されたときに、人間の「心」というものが確立して、人間のシンギュラリティが起こったという考え方に対して、微生物や発酵というものを発見して使いこなした瞬間に、人間はシンギュラリティを迎えたという概念、「ホモ・ファーメンタム」。人類が微生物を発酵させる存在に進化したという壮大なコンセプト。「発酵」や「微生物」というキーワードから、風土、社会、経済、芸術、未来までを語る本。